
2025 年上半期 | 7
脅威環境の動向 脅威テレメトリ 調査レポート 本レポートについて ESET について
序文エグゼクティブサマリー
TA571 によって使用されていました。このキャンペーンで
は、フィッシングメールに添付された悪意ある HTML ファイ
ルが使用されており、これらのファイルを開くと Microsoft
Word やOneDrive を装ったページが表示されます。その
ページには、「エラーが発生しており、コンテンツにアクセ
スするには修正が必要です」などの虚偽のポップアップが
表示されます。被害者は「修正」ボタンをクリックするよ
うに誘導されます。その操作によって PowerShell コマンド
がクリップボードにコピーされます。そして、PowerShell
ターミナルを開いてそのコマンドを貼り付けて実行するよう
指示されます。このコマンドを実行しても、エラーは修正
されず、一連の攻撃チェーンが開始され、別の悪意あるス
クリプトがダウンロードおよび実行されます。最終的には、
ダークウェブでサービスとして提供されている DarkGate や
Matanbuchus マルウェアに感染します。
2024 年末までには、同じソーシャルエンジニアリング手法
を用いた攻撃が Web に氾濫するようになりました。攻撃者
は、Booking.com やGoogle Meet といった人気のサービ
スを模倣した偽の Web サイトを作成したり、正規の Web
サイトを改ざんして偽のブラウザアップデート通知、偽の
Cloudflare 認証、reCAPTCHA チェックを表示したりして
います。また、ClickFix ページへ誘導するリンクが含まれ
るメールキャンペーンも利用されています。最新の「ESET
APT 活動レポート」によると、北朝鮮とつながりのある
DeceptiveDevelopment グループもこのソーシャルエン
ジニアリング手法を利用しており、GitHub で人気のある
リポジトリに Issue(問題)を故意に作成し、その問題に対
する Fix(修正)を提案する方法を用いて、このグループの
WeaselStore マルウェアを配信していました。
ClickFix の手法が非常に効果的であることから、サイバー攻
撃者は最近、ClickFix による攻撃が組み込まれたランディン
グページを提供するツールを別の攻撃者に販売している事例
も報告されています。
ClickFix の亜種が増えるにつれ、この手法によって配信され
る脅威の種類も多様化しています。現在、この手法によっ
て配信される脅威には、Lumma Stealer、Vidar Stealer、
StealC、Danabot など広く拡散している情報窃取型マルウェ
ア、
VenomRAT、AsyncRAT、NetSupport RAT などのリモー
トアクセスのためのトロイの木馬(RAT)、 MeshAgent など
のリモート監視・管理ツール、Havoc やCobalt Strike など
のポストエクスプロイトフレームワーク(侵害した後に攻撃
を続行するためのフレームワーク)、クリプトマイナー、ロー
ダー、クリップボード乗っ取りツールなどがあります。さら
に、
2025 年初頭には、Interlock(旧 Rhysida)ランサムウェ
アを展開しようとする攻撃も確認されました。
国家の支援を受けている攻撃者もこの手法にすぐに飛びつ
いており、初期アクセスを獲得する手段として ClickFix の
ソーシャルエンジニアリング手法をツールセットに組み込ん
でいます。最初に動いたグループは、北朝鮮とつながりのあ
るKimsuky、Lazarus、DeceptiveDevelopment であり、
Windows、Linux、macOS のユーザーを標的にこの攻撃を
仕掛けています。その後、他の国家の支援を受けている攻撃
グループも次々と追随するようになりました。これらのグ
ループには、ロシアとつながりのある Callisto とSednit、イ
ランとつながりのある MuddyWater、パキスタンとつなが
りのある APT36 が挙げられます。
影響を受けているのは主に Windows ユーザーですが、
macOS やLinux ユーザーも標的となっています。macOS
では、ClickFix キャンペーンを通じて AMOS Stealer が配
信されたという報告があります。Linux では、APT36 が偽の
CAPTCHA ページへユーザーをリダイレクトし、そのページ
でAlt+F2 ショートカット(多くの Linux ディストリビュー
ションでコマンド実行ダイアログを開く機能)を使って、悪
意あるコードを実行させるように誘導していました。
しかし、ある侵害のケースでは、攻撃者のサーバーから隠さ
れた JPEG ファイルを取得し、バックグラウンドで開く処理
だけが行われており、実際の損害が生じたり、他の悪意ある
行動が実行されたりしていませんでした。
前述のように、ClickFix 攻撃は複数の段階でセキュリティソ
リューションによって阻止される可能性があります。この攻
撃には、悪意のあるまたは侵害された Web サイトの URL、
HTML 形式のメール添付ファイル、HTA ファイル、JavaScript
ファイル、PowerShell スクリプト、およびペイロードの配信
に使用されるコマンドラインプログラムなどが含まれ、それぞ
れがセキュリティソリューションによって検出される場合が
あります。信頼性の高いセキュリティソリューションであれ
ば、攻撃者がセカンダリペイロードを難読化または隠蔽する
際に使用する「エンベロープ」ファイル(ESET では Win/
Kryptik やWin/GenKryptik として検出)をブロックできる
だけでなく、メモリ上での不審な挙動や、外部へのデータ送
信といった攻撃の兆候を示すネットワーク動作を検知・識別
することもできます。ユーザー側も、「ワンクリックで修正
可能」や「コピーアンドペーストで解決できる」といった形で、
よく分からない問題に対して安易な解決策を提示された場合に
は、常に警戒を怠らないことが大切です。企業は、
EDR(Endpoint
Detection and Response)ツールを活用して、PowerShell の
異常な使用状況を検知できます。特に、通常使用する必要が
ないマシンで PowerShell の実行を検知できれば、このよう
な攻撃を可視化して防御する能力を高めることができます。
ESET のエキスパートの解説
ESET のテレメトリデータによれば、ClickFix はサイバー犯罪者によって最も多く利用される侵入手法の
1つとして急速に台頭しています。この新たなソーシャルエンジニアリング手法が効果を発揮している理
由は、手順が非常にシンプルで被害者が容易に指示に従ってしまうこと、架空のエラーにもかかわらず「本
当に修正できそうだ」と思わせる信ぴょう性の高さ、そしてユーザーがコマンドの内容を十分に確認しな
いという心理的な盲点を巧みに突いている点にあります。この ClickFix の手法は、結果が出ることがわ
かれば、攻撃者が新しい手法をすぐに取り入れる実態を示しています。ClickFix の悪用が広まっているこ
とから、Microsoft、Apple、さらにはオープンソースコミュニティが、Word やExcel のマクロやインター
ネットから取得したファイルに対して表示されるような警告と同様の仕組みを、今後導入する可能性も考
えられます。例えば、「潜在的に危険なスクリプトを実行しようとしています」などの警告をユーザーに
表示する対応が検討されるかもしれません。
ESET シニア検出エンジニア、Dušan Lacika